アメリカのモールは“育てて刈り取る”ビジネスモデルだった——日本との違いに学ぶ投資的発想
「ショッピングモール」と聞くと、あなたはどんな光景を思い浮かべるでしょうか?
週末に家族連れでにぎわう大型施設。映画館やレストラン、アパレルショップがずらりと並び、一日中過ごせるエンタメ空間——そんなイメージを持つ人も多いはずです。
日本ではイオンモールやららぽーとなどが有名で、どの地方都市にもその姿を見かけるようになりました。でも実は、この「モール」というスタイル、もともとはアメリカ発祥。そして、そのビジネスモデルには、日本と大きな違いがあるのです。
今日はそんなアメリカのショッピングモールの**“利益構造”**を中心に、日本のモールとの比較を交えながらお話してみたいと思います。
モールという言葉の由来と進化
「モール(Mall)」という言葉は、もともと並木のある遊歩道を意味していました。中世ヨーロッパで流行した球技「パラ・マル(pall-mall)」のコートが、のちに散歩道として整備されたことから、「パラ・マル」が「モール」に変化したという説があります。
やがて近代都市が発展する中で、この「モール」という言葉は屋外型のショッピング街、さらには屋内型の大型商業施設へと意味を広げていきました。
その代表例が、アメリカのサバービア(郊外)を中心に展開されたショッピングモールです。
アメリカのモールは「ゼネコン × デパート」の共同プロジェクト
アメリカでモールが広がり始めたのは、1950年代の郊外住宅地の拡大とともにです。車社会の到来により、都市の中心部ではなく、広大な土地を活かした郊外型ショッピングセンターが登場しました。
興味深いのは、その開発主体です。多くのモールは、ゼネコン(不動産デベロッパー)と大手デパートが共同で開発したものでした。
つまり、土地の造成・建設を担うゼネコンと、集客の核となるMacy’s(メイシーズ)やSears(シアーズ)といったデパートが手を組んで、一大商業施設をつくり上げていたのです。
「育てて刈り取る」——アメリカ流の利益構造
アメリカのモール運営で最もユニークなのが、**テナント誘致における“投資的思考”**です。
新しくモールを建てる際、当然テナント(店舗)を誘致しますが、アメリカでは、モールの将来性を見込んであえてテナント料を免除するケースがあります。
たとえば、まだ無名だが急成長が期待される企業やブランドに対して、初期数年間の家賃を無料にする、あるいは大幅にディスカウントすることで、そのブランドが育ち、最終的にモール全体の価値が上がることを狙うのです。
これはまさに、ゼネコンやデパートがそのブランドに投資するという発想です。
有名な例としては、「バナナ・リパブリック」や「クリエイト・アンド・バレル」など、今では全米展開しているブランドも、こうした支援のもとで急成長してきました。
ベンチャーキャピタル的な契約の仕組み
テナント料の免除には、もちろん条件付きです。
その1つが、「今後開発されるモールに優先的に出店する義務」です。つまり、成功したブランドが他のモールでも集客装置として機能するように、開発側はある種の囲い込みを図っているのです。
いわばこれは、“ベンチャーキャピタル的な視点”。ただの賃貸契約ではなく、相互の成長を前提にした「戦略的パートナーシップ」とも言える仕組みです。
一方、日本のモールは“安定重視”の運営構造
これに対して日本のモールの多くは、テナント収益型のビジネスモデルです。
たとえば、イオンモールなどは、モール全体の収益の大部分をテナントからの「賃料収入」と「販売歩率(売上の何%を支払う契約)」に依存しています。テナントの売上が良ければ歩率収入も増えるという仕組みですが、基本的には「賃貸業」です。
そのため、「育てる」という発想よりも、“すでに実績のある店舗”を誘致することが重視されます。
実績があるブランド、安定して集客が見込めるチェーン店、地域密着の老舗などが選ばれがちで、アメリカのようなリスクを取った投資的姿勢は見られにくいのが現状です。
この違いがもたらす“未来の差”
もちろん、日本の方式にもメリットはあります。テナントリスクを最小限に抑え、着実に収益を積み上げていく安定経営は、堅実な土地活用としては優秀です。
しかし、アメリカの方式は**「成功すれば大きく刈り取れる」**という成長戦略に基づいています。
実際に、投資されたブランドがIPOしたり、他の不動産案件にも波及したりと、長期的な利益創出が見込める構造なのです。
日本はもっと「育てて刈り取る」視点を持てるか?
日本の地方モールでも空きテナント問題や集客減少に悩まされるケースが増えてきました。そんな中で、単なる“賃貸”ではなく、戦略的な「投資と育成」モデルを取り入れる余地は大いにあるはずです。
たとえば、地域の若手起業家やクラフト作家のブランドを一部テナント料免除で誘致し、モール全体の魅力を高める。あるいは、特定のエリアをスタートアップ特区のようにし、資本提供と店舗展開をセットで支援する——そんな取り組みがあってもいいはずです。
おわりに:モールは“場”をどう育てるか
モールとは単なる買い物の場ではなく、人が集い、発信し、成長する空間です。アメリカのモールのように、**「場そのものに価値を生み出す投資的発想」**を持つことは、これからの日本にもヒントを与えてくれるはずです。
「育てて刈り取る」——それは少し強く聞こえるかもしれません。でもそこには、人やブランド、地域の可能性を信じる姿勢がある。
そんな視点から、あなたの周りの商業施設を見直してみると、また違った景色が見えてくるかもしれません。
