熱意と狂気は紙一重。

熱意と狂気は紙一重。

これは、私が初めて「独占販売権」の交渉に挑み、文字通り空から突撃して玉砕覚悟の直談判を仕掛けた時のエピソードだ。

すべては、とある書店で何気なく手に取った一冊の本から始まった。

「商売をするなら、日本にないアメリカの面白い商品の独占販売権を取って販売してみろ」

この一文が、当時の私の脳内に強烈な電撃を走らせた。

当時アメリカに住んでいた私は、男のロマンが詰まった近未来系ガジェットの宝庫である有名チェーン店「シャーパーイメージ」で、運命の出会いを果たす。 見つけたのは、音楽に合わせて疑似レーザー光線が乱舞する謎の機械「LazerFX」。完全に一目惚れだった。

驚くべきは、その日米の価格差だ。

アメリカでの販売価格はたったの80ドル。ところが日本では、なんと8万8千円で売られていたのだ。当時のレートは1ドル230円。どう計算しても明らかに超絶ぼったくり価格である。

「これを安く持ち込めば、空前のカラオケボックスブームに沸く日本で爆発的に売れるに違いない…!」

私の頭の中では、すでにチャリンチャリンと景気のいい音が鳴り響いていた。

善は急げとLazerFXを購入し、外箱を舐め回すように観察する。 すると、製造元がロサンゼルス近郊のウッドランドヒルズにある「With Design In Mind」という会社だと判明した。

すぐさま電話番号を調べ、独占販売権獲得のために直談判を試みた。 電話口に出たのは、副社長のアーサーという男性。まさかこの男と、その後四半世紀にもわたりビジネスや私生活を共にするほど濃密な付き合いになるとは、この時は知る由もない。

肝心の交渉だが、見事なまでにけんもほろろに断られた。理由すら教えてくれない。 しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。

「頼む!どうしても日本で売りたい。条件だけでも教えてくれ!」 「Noだ」

何度電話しても、見事なまでの連続玉砕だった。 数回のお断り電話を食らった私は、ついに狂気の計画を実行に移すことにした。

「電話がダメなら、直接乗り込んでやる。どうせなら、ド派手に登場してやろうじゃないか」

私はサンノゼから自ら飛行機の操縦桿を握り、なんと会社の近くの飛行場まで空からひとっ飛びしたのだ。 着陸直後、空港からアーサーにダイヤルし、満を持してこう言い放ってやった。

「やあアーサー。今、君の会社の近くの飛行場に着陸したところだ。今からそっちに行くから、時間を作ってくれよな!」

空から強襲してきた謎の日本人営業マンに対し、受話器の向こうのアーサーはこう言い放った。

「……5分だ。5分だけ時間をやるから、会いに来い」

しめた。ゼロがイチになった瞬間だ。

私はすぐさま空港でタクシーを拾い、一路彼の会社へと向かった。 到着した私を待ち受けていたのは、常識を嘲笑うかのような、奇抜なデザインの社屋だった。クリエイティビティの塊のようなその佇まいに、否が応でも胸が高鳴る。

受付に向かい、「アーサーを呼んでほしい」と伝える。 しばらくして奥からヌッと現れたのは、見上げるほどの大男だった。身長は優に190センチはあろうか。彼の名は、アーサー・ローゼンタル。ユダヤ系のビジネスマンである。

圧倒的な威圧感を放つ彼は、私を自身のオフィスへと招き入れた。 そして席に着くなり、なぜ私に独占販売権を「与えない」のか、その理由をとうとうと語り始めたのだ。

理由はこうだった。

ある日、私と同じように「独占販売権が欲しい」という日本人がコンタクトを取ってきたらしい。 アーサーは彼を丁寧にもてなし、交渉の末、「初回に100個のLazerFXを購入し、その後も継続して仕入れる」という約束の下、快く日本の販売権を与えたのだという。

「だが、どうだ」

アーサーの眼光が鋭くなった。

「ここ半年間、奴から何の連絡もない。完全に音信不通だ。……私はもう、日本人は信用しないことにした」

重い沈黙がオフィスを満たした。 彼が電話口で頑なに私を拒絶し続けていた理由。それは、先人である日本人ビジネスマンに裏切られたという、深く生々しいトラウマだったのだ。

「だから、お前には販売権はやらん」

アーサーの言葉は、冷たく、そして絶対的な響きを持っていた。 理不尽な連帯責任だと言い返すこともできたが、ビジネスにおいて「信用」を失った代償はあまりにも大きい。彼の怒りはもっともだった。

突破口は完全に見失われた。 これ以上の説得は逆効果だと悟った私は、この日はひとまず引き上げることにした。帰り際、彼がなぜか土産に持たせてくれた一台のLazerFXとともに。

戦利品と呼ぶにはあまりにもほろ苦いその箱を抱えながら、私は決して諦めてはいなかった。

つづく

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