日本人が見落としがちな発想力——右ハンドルに秘められた合理主義
アメリカの郵便トラックは、なぜ「右ハンドル」なのか?——合理性の国アメリカに学ぶ発想力
「とかくアメリカ人は合理的だと思う。」
そんな一言から始まるこの話題。日々、私たちは何気ない生活の中で様々な国の文化や価値観と触れていますが、その中でも「合理性」というキーワードでアメリカを語るとき、実に興味深い例があります。
その一つが、**アメリカの郵便トラック(USPS:United States Postal Service)**です。
アメリカは基本的に右側通行の国。そして車の運転席は、当然ながら左側にあります。ところが、郵便局の配達トラックに限って言えば、**「右ハンドル」**の車両が一般的なのです。
これはいったい、なぜなのでしょうか?

デジタルとアナログの発想の違い?
ある学者の言葉を借りるならば、「西洋人の頭はデジタルで動いており、東洋人はアナログで考える」と言います。
この言葉が示すのは、白黒はっきりつけたがる合理的な思考と、感情や空気を重んじる柔らかい思考の違い。もちろん一概には言えませんが、国民性として「効率」を重視するのがアメリカであるというのは、多くの人が感じるところではないでしょうか。
アメリカの郵便トラック:右ハンドルの合理性
さて、本題に戻りましょう。
アメリカの郵便トラックが右ハンドルである最大の理由は、**「効率性」**にあります。
アメリカは右側通行のため、普通の車の運転席は左側についています。ところが、郵便配達という仕事では、ドライバーは道路脇にあるポストや住宅の郵便受けにアクセスする機会が非常に多いのです。
もし運転席が左側にあると、配達のたびにドライバーは助手席に身を乗り出したり、いちいち車を降りて道路を横断したりしなければならない。これは非常に非効率的ですし、危険でもあります。
そのため、USPSの配達トラックはあえて「右ハンドル」を採用しています。これにより、ドライバーは車の右側から直接ポストに手を伸ばせるようになっているのです。
しかも、その乗降口にはスライド式ドアが採用されており、狭いスペースでも安全かつスムーズに乗り降りできます。地味に見えるかもしれませんが、こうした設計の積み重ねが、全体として大きな効率化につながるのです。
USPSの車両事情:専用設計と驚きの耐用年数
USPSの配達車両として最も有名なのが、**LLV(Long Life Vehicle)**と呼ばれる専用設計車です。1987年から導入され、なんと30年以上使われ続けてきました。
この車両は、GMとGrummanが共同で開発したもので、郵便配達に特化した設計がなされています。小回りの利くサイズ感、耐久性の高いシャシー、そしてもちろん右ハンドル。
エアコンやパワーウィンドウといった快適装備はありませんが、必要最小限の機能を備えたこの車は、まさにコストパフォーマンスの塊とも言える存在です。
ちなみに現在は後継として**NGDV(Next Generation Delivery Vehicle)**の導入が始まっていますが、こちらも引き続き右ハンドルで、しかも電動車両が中心になっています。エコと効率を兼ね備えた進化系ですね。
日本でも右ハンドルの配達車はあるけれど…
では、日本の郵便事情はどうかというと、もちろん日本は左側通行ですから、郵便配達車は基本的に左ハンドルで問題ありません。
実際、日本郵便の軽自動車などを見ると、効率性や機動力を意識した設計がなされています。しかし、興味深いことに、民間の宅配業者や新聞配達などで使われるバイクや軽トラックでは、配達のしやすさを優先して「片側スライドドア」や「助手席撤去」などが行われています。
つまり、アメリカほど極端ではないにせよ、日本でも**「現場に即した合理化」**は確かに存在しているわけです。
ただ、制度や車両の標準化が優先されることが多い日本では、郵便車両に右ハンドルを採用するような「現場起点の大胆な変更」はなかなか実現しにくいのかもしれません。
「合理性」という視点で世界を見てみると…
今回の郵便トラックの右ハンドルという話は、一見するとニッチな話題のように感じられるかもしれません。
けれど、ここには多くの示唆があります。
- 現場のニーズに徹底して応える姿勢
- コストよりも「時間の節約」を優先する発想
- 見た目よりも機能を重視する文化
こうした視点は、私たちが日々の暮らしやビジネスで何かを選び、設計し、改善するときにこそ役立ちます。
たとえば、仕事の導線を見直してみる。家庭内の収納を合理的に配置する。使わないアプリを削除して、スマホの動作を軽くする……。
大きなことだけでなく、日々の「小さな合理性」の積み重ねが、私たちの時間や心のゆとりを生み出してくれるのです。
おわりに:真似できるところから始めよう
合理的と聞くと、なんだか冷たい印象を受けるかもしれません。でも、アメリカの郵便トラックのように、**「現場で働く人の負担を減らすための合理化」**は、決して冷たいものではありません。
それどころか、人を思いやる設計とも言えるのではないでしょうか。
私たちの暮らしや仕事の中にも、まだまだ改善の余地はたくさんあります。すべてを真似する必要はありませんが、「あ、これ真似してみようかな」と思える小さな工夫が、きっと大きな変化をもたらしてくれるはずです。
