サンフランシスコ到着──そしてHAYWARDへ

サンフランシスコ到着──そしてHAYWARDへ

サンフランシスコ国際空港。

飛行機がタッチダウンした瞬間、胸の中に湧き上がるのは「ついにここまで来た」という安堵と、「ここからが本番だぞ」という緊張感だった。

ターミナルへと歩を進める。

ゲート出口を出たその先、人だかりの中で目に飛び込んできたのは、手書きのプラカードを持った男の姿だった。

日本のどこにでもいそうな、背の低いおっさん──それもどこか猿を思わせるような顔立ち。けれど、しっかりと僕の名前がそこに書かれていた。

「……あれか?」

恐る恐る近づいていくと、その男が僕に気づき、ニヤッと笑った。

「よく来たね〜。最初は大変だったねぇ」

この一言で、旅の疲れがすっと軽くなった。


アメリカの大地をピックアップで走る

彼の運転するピックアップトラックに乗り込み、向かったのはヘイワード(HAYWARD)。

車窓から見える景色は、見たこともない色彩で構成されていた。

乾いた空、広がる郊外の住宅街、そして無限に続くかのような道。

道中、おっさんがHAYWARDのことを教えてくれた。

「ここはサンフランシスコ湾の東、ベイエリアのど真ん中。  交通の便がよくて、飛行学校もいくつかあるんだ。  昔は工業地帯だったけど、最近は住宅地として人気が出てきてるんだよ」

HAYWARDという地名は、このとき初めて耳にしたが、不思議と馴染みやすく感じた。


コンドミニアムの寮生活がはじまる

やがてたどり着いたのは、少し古びたコンドミニアム。

「ここが君の新しい家だよ」と案内されたその寮には、すでに6人の先輩留学生たちが生活していた。

みんな日本人で、すでに数ヶ月のアメリカ生活に慣れている様子だった。

その中で、ひときわ存在感を放っていたのが福田さんという男性だった。

福田さんは僕の話をひと通り聞いたあと、ふっと息をついてこう言った。

「オマエは偉い。普通は一度あんな目に遭ったら諦める。  でも諦めずにまた戻ってきた。それがすごいよ」

その言葉に、僕は思わず胸が熱くなった。

福田さんは事業用パイロットの資格を持っており、今回の滞在ではナイトフライトの時間稼ぎのために再び渡米していた。

「日本じゃナイトフライトの訓練なんてほとんどできないからね」と、彼はぼそっとつぶやいた。


空を目指す、6人の男たち

もう一人のルームメイトは、ヘリコプターのパイロット。彼もまた、クロスカントリー飛行時間を稼ぐためにアメリカに来ていた。彼は少し無口だが、操縦の話になると目が輝くタイプで、僕の話にもよく耳を傾けてくれた。

そして、年配のサラリーマンが一人。定年退職を機に、長年の夢だったパイロットのライセンス取得に挑戦していた。「人生は一度きりだしね」と笑うその背中には、何か強い決意のようなものがにじんでいた。

陸上自衛隊に所属しているという青年もいた。休暇を取ってライセンスを取りに来たというが、とにかく口数が少ない。最初は何を考えているのかわからなかったが、黙々と勉強に励む姿に、彼なりの本気を感じた。

そしてもう一人は、同じくサラリーマンで、現在は会社を休職中だという男性──坪井さんだ。

坪井さんは不思議な魅力のある人だった。いつも穏やかで、やや天然なところもあるけど、根はとても真面目。夜になるとウィスキー片手に「やっぱり空はロマンだよ」と語り始める。僕より少し年上で、何かと気にかけてくれる優しい兄貴分のような存在になっていった。

さらにもう一人、異彩を放つ若者がいた。九州工業大学を卒業したばかりのインテリ青年。

物腰は柔らかく、知識も豊富。ただし、ものすごくシャイで、どこか不器用な感じが漂っていた。僕と同じく、英語の早口アナウンスに困惑していたこともあり、そこから徐々に打ち解けていった。彼がなぜか「童貞」と呼ばれていた理由については……また別の話だ。

最後に、沖縄出身で新宿のスナックを経営しているという、斉(さい)さん。

この人がとにかくキャラが濃い。年齢不詳、なぜかいつもアロハシャツ、寮内ではひときわ声が大きく、行動も自由奔放。にもかかわらず、どこか憎めない不思議な魅力を放っていた。

「オレ、こっちでスナックやろうかな」と真剣に話していた彼は、のちのち様々な“事件”を巻き起こす存在になるのだが、この時点ではまだその片鱗を見せていなかった。


こうして始まった、7人の奇妙で熱い寮生活。

それぞれの背景、それぞれの夢、それぞれの人生が交差する場所。

異国の地ヘイワードで、僕はまたひとつ新しい物語の幕を開けることになる。

部屋をあてがわれ、時差ボケボケで、挨拶もそこそこベッドへ倒れ込んだ。

現地時間の8時頃、ノックの音で目が覚めた。お腹がすいていた。

キッチンには、炊きたてのご飯と味噌汁、それにサンマの塩焼きが用意されていた。

「……日本食だ😀」

アメリカに来た初日の夕食が、まさかの和食だったことにホッとしながら箸を進めた。

空腹が満たされると、みんな自然と自分の部屋へと戻っていった。

何やらそれぞれ真剣に机に向かっている。

聞けば、皆が皆、各自の目標に向けて勉強中らしい。

僕はというと、日本で事前に学科試験の勉強をみっちりこなしてきたため、今は特にやることがない。

そこで、せっかくのアメリカ初日だし──ということで、外の空気を吸いに“冒険”に出ることにした。

つづく。

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