【続編】アメリカ初日の夜、そして初めてのメディカル検査
◆ 大男との別れ、そしてコンボイで帰還
バーで笑い合ったあと、時計を見ると、もうかなり夜も更けていた。
そろそろ帰らなきゃ──
そう思った僕に、大男が親指を立てて言った。
「オレのコンボイで送ってってやるよ!」
ありがたかった。徒歩で夜道を帰る自信はゼロだったし、なによりちょっと心細かったから。
巨大なコンボイに乗せてもらい、夜のヘイワードを走る。
ネオンが流れる窓の外。アメリカの夜風が、やけに肌に心地よかった。

◆ 寮に帰ったら…待ち構える修羅場
寮の前で降ろしてもらい、軽くお礼を言ってコンボイを見送る。
そして玄関を開けた瞬間──
……空気が、重い。
リビングには、先輩たちがズラリと並び、中央には、あの”猿似の学長”が仁王立ちしていた。
「あ、帰ったか」
低い声。重い沈黙。
そして、始まった。
猿による、大説教大会。
「アメリカをなめるな!」
「夜中に勝手に出歩くなんて非常識だ!」
「ここは日本じゃない!」
頭ごなしに怒鳴るというよりも、
本気で心配してくれているのがわかる怒りだった。

猿(以後、みんなが呼んでいた通り“猿”と書く)は、最後にこう言った。
「明日の朝、迎えに来る。航空身体検査(メディカル)だ。ちゃんと起きろよ。」
……はい。
しゅんと小さくうなずいた僕だった。
◆ 翌朝──ピックアップに乗って病院へ
まだ夜が明けきらない時間、
寮の前にやってきたボロボロのピックアップトラック。
運転席にいるのはもちろん、猿。
無言でドアを開け、乗れ、というジェスチャー。
エンジン音を響かせながら、一路、病院へ向かう。
あの乾いた朝の空気を、僕は一生忘れないと思う。
◆ はじめてのアメリカでのメディカル検査
受付を済ませると、すぐに検査が始まった。
・遠距離視力、近距離視力
・深視力(両目で奥行きを判断するやつ)
・視野検査
・赤点検査(色覚異常のチェック)
・聴力検査
ここまではスムーズだった。
問題は、そのあとだ。
「パンツを下ろしてください」
……はい?
言われるがまま、人生初、
アメリカでお尻を検査されるという屈辱を味わうことになる。

(マジかよ……アメリカって容赦ないな……)
冷たい検査官の視線。冷えた検査室の空気。
すべてが僕の心を試しているようだった。
◆ 合格──そして次なる試練へ
検査が終わると、その場で合格書をもらった。
「You passed. Congratulations!」
思わず、心の中でガッツポーズ。
ロビーに出ると、猿がピックアップにもたれかかって待っていた。
「受かったか?」
「はい!」
「よし。じゃあ、明日は学科試験な。」
えっ。
休む暇なんて、ないらしい。
こうして、僕のアメリカ挑戦2日目も、波乱含みで幕を閉じた。
──つづく。
